旭川地方裁判所 昭和49年(ワ)143号 判決 1976年3月22日
原告
松橋光克
被告
谷村定雄
ほか二名
主文
被告吉田勝彦は原告に対し金一、一一四、〇八〇円およびこれに対する昭和四九年五月一一日から完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。
被告谷村定雄、同谷村アイ子はそれぞれ原告に対し各金五五七、〇四〇円およびこれに対する昭和四九年五月一九日から完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。
原告の被告ら三名に対するその余の請求を棄却する。
訴訟費用は原告と被告吉田勝彦の間に生じた分は、これを二〇分し、その一を原告の、その余を同被告の負担とし、原告と被告谷村定雄の間に生じた分は、これを二分し、その一を原告の、その余を同被告の負担とし、原告と被告谷村アイ子の間に生じた分は、これを二分し、その一を原告の、その余を同被告の負担とする。
この判決は第一、二項に限り仮に執行することができる。
事実
一 原告の求める裁判
1 被告らは各自原告に対し金一、一六六、一〇〇円およびこれに対する被告谷村両名は昭和四九年五月一九日から、被告吉田は同月二一日から完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。
2 訴訟費用は被告らの負担とする。
との判決および仮執行の宣言。
二 被告らの求める裁判
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
との判決。
三 原告の請求原因
1 原告は、昭和四七年三月二八日午後六時半頃、旭川市大雪通五丁目国道三九号線上において、谷村利雄運転の二輪車(旭な一六四五)に同乗して進行中、被告吉田勝彦運転の乗用車(旭五ま八五九三)と衝突し、原告は右大腿骨々折等の傷害を受けた。
2 被告らは次の理由により原告が右事故により蒙つた損害を賠償する責任がある。
(一) 被告吉田勝彦は右乗用車を所有し、これを自己のために運行の用に供していたから自賠法三条による責任がある。
(二) 被告吉田は右折するに当り谷村利雄の運転する右二輪車が前方から直進してくるのを認めながらこれを無視して右折をし、また谷村利雄は原告を同乗させて時速約六〇キロメートルで進行中、前方から被告吉田運転の右乗用車が進行してくるのを認めながら減速して停止するようなこともしないまま進行し、衝突したものである。従つて本件事故は被告吉田の過失と谷村利雄の過失の競合により生じたものであるから谷村利雄は民法七〇九条による責任があるところ、同人は右事故で即死し、同人の両親である被告谷村定雄、同谷村アイ子が利雄の権利義務を相続した。
3 原告は本件事故により次のとおり合計一、一六七、六〇〇円の損害を蒙つた。
原告は本件事故により右大腿骨々折等の傷害を受け、その後昭和四九年三月二八日頃混合感染骨髄炎合併と診断され骨の移植等の手術を受けなければならないが、後遺症が残るおそれがある。また原告は日立電機株式会社に勤務していたが右傷害のため就労不可能となり、昭和四八年四月退職を命ぜられた。以上により原告の損害は、
(一) 入院雑費二六七、六〇〇円(昭和四七年三月二七日から同四九年八月三一日まで一日三〇〇円の割合)
(二) 慰藉料八〇〇、〇〇〇円
(三) 弁護士費用一〇〇、〇〇〇円
合計 一、一六七、六〇〇円
4 よつて原告は被告らに対し右損害のうち一、一六六、一〇〇円とこれに対する本件訴状送達の日の翌日である被告谷村両名については昭和四九年五月一九日から、被告吉田については同月二一日から完済に至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。
四 請求原因に対する被告らの認否および主張
1 被告谷村両名
(一) 請求原因1は認める。同2(二)のうち被告谷村両名が谷村利雄の両親であり同人の権利義務を相続したことは認めるが、利雄に過失があつたとの点は争う。同3は不知、なお骨髄炎合併につき本件事故との因果関係を争う。
(二) 原告は本件事故当時谷村利雄と同じ日立建機株式会社に勤務しており、本件事故発生日は会社の従業員集会で遅くなつたので利雄運転のバイクで家まで送つてもらうことになり、その途中本件事故に遭遇したものであり、利雄に対する関係では好意同乗者であるから損害額算定にあたり斟酌されるべきところ、被告谷村両名は利雄の損害賠償義務を相続したものであるから、同被告らに対する関係でも右事情は斟酌されるべきである。そして本件においては三割の過失相殺が相当である。
2 被告吉田
請求原因1および2(一)は認める。同2(二)のうち同被告に過失があるとの点は否認する。同3は争う、骨髄炎合併につき本件事故との因果関係を争う。
五 証拠〔略〕
理由
一 請求原因1は当事者間に争いがない。被告吉田が前記乗用車を所有しこれを自己のために運行の用に供していたことは同被告の認めるところである。
成立に争いのない甲第一号証、第三ないし第七号証、証人沼山実の証言、原告本人尋問の結果によれば次の事実が認められる。
本件事故現場は南西の大雪通一丁目方面から北東の永山町一丁目方面へ通じる車道幅員一六メートルで直線、アスフアルト舗装の国道に南東方面から幅員六メートルの道路がT字形に交差しているところであり、事故時は天候は晴れており、少し暮れかかつてはいたがまだ明るく見通しはよい状態であり、車の交通量も他に数台あり、また右は市街地で右国道上は最高速度時速四〇キロメートルの速度規制がなされている場所であること、
被告吉田は前記乗用車を運転して右国道上を大雪通方面から永山町方面に向けて時速約四〇キロメートルで進行し、右交差点を右折すべく右交差点の約三〇メートルほど手前でウインカーをあげ減速していつたが、その際約八二メートルほど前方に谷村利雄運転の前記二輪車が進行してきているのを認めたが、右二輪車が通過するよりも先に右折できると思い、右交差点の一〇数メートルほど手前で時速二〇キロメートルぐらいまでに減速しハンドルを右に切つて右折を開始したところ、右二輪車がすでに前方約二三メートルほどのところに来ているのを知りブレーキをかけたが間に合わず、自車右前側部を右二輪車右側面に衝突させたこと、
谷村利雄は右二輪車の後部に原告を同乗させて右国道を永山町方面から大雪通方面へ時速約七〇キロメートルで自車進路の中央付近を進行し、対向してきた吉田運転の乗用車が右折しようとしているのに利雄は特に減速もしないでそのまま進行し右交差点を五メートルほど過ぎたところで、右折してきた被告吉田運転の乗用車と衝突し、二輪車は跳ね飛ばされて転倒し、谷村利雄は即死したこと、
以上の事実が認められ、右事実によれば被告吉田は谷村利雄運転の二輪車が直進してくるのを認めていたのだから、これが通過するのを待つて右折を開始するなどして事故を避けるべきであつたのにこれを怠つて右折を開始した点に過失があり、谷村利雄は被告吉田運転の乗用車が右折をすべく交差点付近にあつたのだから減速するなどして安全を確め事故を避けるべきであつたのにこれを怠つてそのままの速度で進行した点に過失がある。
そうすると被告吉田は自賠法三条、民法七〇九条により、谷村利雄は民法七〇九条により、原告が本件事故により蒙つた損害を賠償すべき義務があるところ、利雄は右記のとおり本件事故で死亡し、利雄の両親である被告谷村両名が利雄の権利義務を相続したことは同被告らの認めるところであるから、同被告らはその相続分に従つて原告の右損害を賠償すべき義務がある。
二 成立に争いのない甲第八、九号証、証人高橋坦の証言、原告本人尋問の結果によれば次の事実が認められる。
原告は本件事故により右大腿骨々折、右下腿挫創、右足部打撲、頸椎捻挫の傷害を受け、その治療のため事故当日の昭和四七年三月二八日旭川市の進藤病院に入院し、同年四月四日骨折部の手術を受け、同年五月二三日頃から足を少しづつ動かす訓練を始めていたこと、
ところが同年九月一〇日頃から術部が腫れてきたため検査したところ緑膿菌の感染症で骨髄炎であることが判明し、右は当初の下腿の傷からかまたは右手術の際に感染した可能性が高く、他に感染の原因となる事情はないこと、原告の下腿骨々折の治療のためには右手術が必要であり、一般に病院の手術室は全く無菌状態であるというものはほとんどなく、手術の際に緑膿菌に感染することは、例としては少いが、避けられない状態であること、
原告はその後現在に至るまで入院したまま、抗生物質等の投与を受け、炎症部分の膿を洗い流す等の治療を受けていること、
以上の事実が認められる。右事実によれば骨髄炎の併発が当初の下腿の傷から感染した場合であつても、手術の際に感染した場合であつても本件事故との間に因果関係を認めることができる。
三 そこで原告の主張する損害について判断する。
1 入院経費
原告は右傷害の治療のため事故当日から現在に至るまで進藤病院に入院していることは右認定のとおりであり、この間入院雑費として平均すれば一日少くとも三〇〇円を要することが認められ、従つて現在に至るまで原告主張の二六七、六〇〇円は下らない入院雑費を要したことが認められる。
2 慰藉料
右各証拠によれば、原告の傷害は当初の大腿骨の骨折自体は手術後二〇週くらいで骨が着き、普通右のような骨折程度で骨髄炎等が併発しなければ半年ほどで完治し得るものではあるが、原告の場合骨髄炎が併発しているため、骨折部分に体重をかけると再骨折を起すおそれがあり、現在なお歩行には松葉杖を使用していること、
現在骨髄炎は徐々に回復してきてはいるが、今後膿が止まるであろうと予想される半年くらい先には骨折部分の補強のための再手術も必要な状態であり、それで完治したとしても右膝に相当程度の屈曲制限の後遺症の残るおそれが高いこと、
以上の事実が認められる。そして前認定のとおり原告は本件事故により前記のような傷害を受けて長期間の入院を余儀なくされたうえ、右のような後遺症の残るおそれもあること、その他前認定の各事情を考慮すれば、原告のうけた精神的苦痛を慰藉するための慰藉料額は少くとも一、〇〇〇、〇〇〇円を下らないものと認められる。
3 弁護士費用
後記の本訴認容額から判断すれば弁護士費用は一〇〇、〇〇〇円とするのが相当である。
以上によれば原告は本件事故により、弁護士費用を除き、少くとも一、二六七、六〇〇円の損害を蒙つたことが認められる。
四 次に好意同乗の主張について判断する。
成立に争いのない甲第四、五号証、証人斉藤昭三の証言、原告本人尋問の結果によれば次の事実が認められる。
原告(事故当時一七年)と谷村利雄(事故当時一八年)はともに昭和四六年四月職業訓練所を出た後日立建機株式会社旭川サービス工場に勤務するようになり、谷村利雄は冬期間以外は前記二輪車で通勤しており、原告は通常はバスで通勤していたが、特に利雄の二輪車に同乗させてもらうことがあつたこと、
本件事故当日勤務終了後に組合の集会があり、午後五時五〇分頃それも終了したところ、谷村利雄は原告に対し遅くなつたので自己の二輪車で送つていく旨申出たので、原告も気軽にこれを受けて右二輪車後部に同乗し、利雄が前記のとおり時速約七〇キロメートルほどの速度を出しても特にこれに注意を与えることもなくそのまま同乗していて本件事故に会つたものであること、
以上の事実が認められる。そして右原告が利雄運転の二輪車に同乗した態様を考慮すれば、その損害額(弁護士費用を除く)につき二割の過失相殺をするのが相当である。従つて前記原告の蒙つた損害(弁護士費用を除く)につき二割の過失相殺をすると一、〇一四、〇八〇円となり、これに弁護士費用を加えると一、一一四、〇八〇円となる。
五 以上の理由により、原告の損害は金一、一一四、〇八〇円となり、被告吉田は原告に右金員およびこれに対する本件訴状送達の日の翌日であること記録上明らかな昭和四九年五月二一日から完済に至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金を支払う義務があり、被告谷村両名はそれぞれ右損害賠償義務を法定相続分に従つて二分の一づつ相続しているから、右金員の二分の一である五五七、〇四〇円およびこれに対する右被告両名への本件訴状送達の日の翌日であること記録上明らかな昭和四九年五月一九日から完済に至るまで年五分の割合による遅延損害金の限度で、それぞれ被告吉田と連帯して原告に支払う義務がある。
よつて、原告の請求は右の限度で理由があるから、その限度で認容し、その余は理由がないから棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条、九三条、仮執行の宣言につき同法一九六条を各適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 竹江禎子)